皆さんこんにちは。
昔からおなじみの怪異に、火の玉や鬼火と呼ばれる発火、発光現象があります。
人の霊魂や狐狸のいたずらで、夜な夜な炎が宙を漂うという怪異ですね。
奈良県内で古くから知られている怪異に「じゃんじゃん火」という鬼火があります。
県内各所に出没して伝承されている鬼火ですが、その話のバリエーションが豊かなので、代表的なものをご紹介したいと思います。
ちなみに、名前の由来は「じゃんじゃん」と音を立てて飛んでくるからその名がつけられているといわれています。
奈良市白毫寺、大安寺
昔、侍と木辻(大和国最大の遊郭だった場所)の女郎が心中しました。
二人は身分が違うということで、それぞれ大安寺と白毫寺に葬られました。
そのため、夜な夜な、二人の魂が炎となって大安寺と白毫寺を抜け出し、二つの寺の中間にある夫婦川(能登川か?)の上で激しくもつれ合い、やがて寺に戻っていったといいます。
このじゃんじゃん火は、人目を忍んで会おうとするため、決して見てはいけないとされ、見たものは殺されてしまうのだそうです。
目撃者が殺されてしまうのにどうして話が伝わるのか?そのあたりは怪談のお約束ということで、野暮は言わないようにしましょう。
一条通りのセンダンの古木
一条通りのセンダンの古木と 高橋堤のセンダンの古木から、雨の夜には決まってジャンジャン火が現れ、合戦したそうです。
長く尾を引いた青い火の玉で、炎の中に年輩の男の顔が映っており、奈良時代の公卿の怨念といわれています。
この火を見ると、熱病となり、死んでしまった人もいるといいます。
じゃんじゃん火が現れたという一条通のセンダンの古木は、切り株になっていますが、一条高校の校門前に今も健在です。
場所はこちら。
国道24号線との交差点に当たる交通量の多い場所ですが、雨の夜、この辺りを通るときは気を付けましょう。
大和郡山市打合橋
豊臣秀長が郡山城主だったころ、その家老の子に亀井式部という若い侍がいました。
この式部は深雪という百姓の娘と恋に落ち、身分の差があったためか、ひそかに打合橋で逢引を重ねていました。
しかし、二人の関係がばれてしまい、式部は斬首されることになりました。
式部の願いで、彼は打合橋で処刑されることになり、6月7日に斬首されました。
打ち落とされた首は、橋の下に転げ落ち、それを見ていた深雪は、首に抱き着き自害して果てました。
それから6月7日の夜には、2つの大きな火の玉が東西から現れて、打合橋の上でもつれ合いながら、じゃんじゃんと音を立てて舞ったといいます。
これを不憫に思った周辺の村人たちは、毎年6月7日になると橋のたもとで二人の霊を慰めるために踊ったといいます。
じゃんじゃん火が現れたという打合橋は、今でも現役で交通量も多い橋です。
場所はこちら。
九条スポーツセンターのすぐそばで、非常に交通量の多い場所ですね。
私も何度も通っている場所ですが、じゃんじゃん火は見かけたことがありません。
この場所は、じゃんじゃん火よりも、一旦停止違反を取り締まるパトカーがよくいるので、自動車で通るときは、そちらの注意が必要な場所になっているかもです。
天理市藤井町、田井庄町など
天理市に伝わるじゃんじゃん火は、戦国時代に没落した名族、十市氏にまつわるものが多く伝えられています。
龍王山城跡や、十市城跡では、城跡に向かって「ほいほい」と2、3度呼びかけると、じゃんじゃんという音ともに無数の怪火が飛んできて、これを見たものは必ず病気になるとも焼き殺されるともいわれています。
炎の正体は、「松永久秀に攻め滅ぼされた十市遠忠の怨念」と伝わりますが、十市遠忠は、久秀の大和侵攻前に病死しているので、伝説上のお話ということが言えるでしょう。
しかしながら、十市氏は松永氏と筒井氏の抗争に巻き込まれて没落し、龍王山城や十市城では幾たびも血なまぐさい戦いが行われましたので、犠牲者の怨念が渦巻いていると考えてもおかしくない場所です。
この地の人々が城跡でまれに目にする発光現象を、戦乱で命を失った十市方の武者たちの怨念と考え、恐れたというのもわかる気がしますね。
また、天理駅のほど近く、天理大学体育学部に面した地蔵前交差点にあるお地蔵さん。
こちらのお地蔵さんは、首と胴体が真っ二つに割れています。
場所はこちらになります。
昔、大晦日の夜、庄右衛門という浪人がこの地蔵堂で休んでいると、じゃんじゃん火が突然飛んできて、襲い掛かってきました。
庄右衛門は恐れおののき、刀を振るって必死で追い払おうとしましたが、どうすることもできず焼き殺されてしまいます。
翌日になると庄右衛門の焼死体にはびっしりと奇怪な虫が群がっており、刀が当たったせいか、お地蔵さんの首が切り落とされていたそうです。
それ以来このお地蔵さんは首切地蔵と呼ばれるようになりました。
なんとも猟奇的なお話ですね。
このように奈良県各地に伝わるじゃんじゃん火ですが、どれも非業の死を遂げた者の怨念であり、猛烈に祟る怪火である点が共通しています。
奈良県に伝わる怪異の中では、間違いなく最も恐ろしい怪異の一つといえるでしょう。
<参考文献>